第27回Joint Concert in Brass 2023

日時:2024年4月28日(日12:10開場 13:00開演
場所:りゅーとぴあコンサートホール
料金:800円(当日1,000円)チケットお申し込み←メールでどうぞ(申込締め切り:4/25)
主催:Joint Concert in Brass実行委員会
共催:新潟市

20世紀の墓


田村文生:「20世紀の墓」Le Tonbeau du XXe siècle
この曲は、「千の風になって」の編曲である・・・ということに、当初はなるはずでした。しかし、原曲が非常に広く知られているという事実、また、その旋律的特徴は、私の「編曲」という作業を、限りなく「作曲」へ仕向けるものでした。
音楽の創作は、作曲家の霊感や想像力によって、あるいは神からの啓示によって、全く何も無い状態から「創作」されるもの、といったイメージがあるかも知れませんが、それは本当に、全て霊感の為せる技であり、神の仕業なのでしょうか?詩歌において「本歌取り」という手法がありますが、音楽においても同じことが言え、著名な作品の様式や技法を模倣したり、旋律を引用・借用したりすることは、長い歴史を振り返ってみるとむしろ常識であり、それ自体が「創作」であったと言っても過言ではありません。多少大袈裟な表現をすると、世の中の作品全てが、多かれ少なかれ「本歌取り」の側面を持っていると言うことができるのではないでしょうか。そうなってくると、作曲とは、新しく創作されたものなのか、あるいは、既成の作品を改変した「編曲」なのか、という区別は非常に曖昧になってきます。そのような意味においてこの作品は、「千の風になって」を本歌取りした新しい曲ということになりますが、実はこのような判断は、これを書いた私がするものであると同時に、受け手(本日お聴き頂く皆さん・聴者)でもあると言えるでしょう。
 さて、編曲(作曲?)に際し、原曲の旋律を眺めてみると、それは非常にシンプルな要素で構成されていることが解りました。しかし同時に、この曲の歌い出しである「私の~」の部分の(音階名で表すと)「ソ・ド・レ・ミ」、また、曲を特徴付ける旋律の動きである「泣かないで下さい~」の「ド・レ・ファ・ミ」(「ないでく」の部分)は、西洋音楽史的には、非常に大きな意味を持つものです。「ソ・ド・レ・ミ」は、実に様々な音楽の旋律の出だしに用いられ、枚挙にいとまがないですが、「ド・レ・ファ・ミ」は、グレゴリオ聖歌の「パンジェ・リンガ(歌え舌よ)」の旋律として、あるいは、ジュピター主題(モーツアルトの交響曲第414楽章の主題)として、西洋音楽の世界では古くから知られていました。「千の風になって」のトレードマーク的な部分にそれが表れるという事実は、音楽の歴史的繋がりを私に意識させることになりましたが、今回の編曲に際しては、それは、この作品と20世紀の西洋芸術音楽との関連として表れ、ドビュッシー、ラヴェル、ストラヴィンスキー、バルトークなど、20世紀前半から中葉にかけての作曲家達の様式を模倣することとなりました。
ラヴェルには「クープランの墓」という作品があります。これはラヴェルがクープランに代表される18世紀のフランス音楽へのオマージュ(賛辞)として書いたものですが、各楽章は第1次世界大戦で戦死した友人に捧げられています。「千の風になって」を基としたこの作品を、私は20世紀音楽へのオマージュとして作曲していましたが、その途中、東日本大震災が起ってしまいました。大戦こそ回避可能な努力がされている現代の社会においても、天災を防ぐ術を持たない我々の無力感を実感せずには居られませんでしたが、同時に、私を含め、現代に生きる作家による音楽の存在意義を問うことにもなりました。被災した方々の一日でも早い回復を、そしてまた、吹奏楽を通じて音楽活動を行っていた被災者の皆さんが、再び、楽器が吹け、演奏会ができるようになる日が、一日でも早く来るよう願うばかりです。
犠牲者・被災者の方々に、この曲を捧げたいと思います。
田村 文生(たむら ふみお)
  東京藝術大学大学院およびGuildhall School of Music and Drama, London大学院修了。
これまでに作品がアジア音楽祭、東京の夏音楽祭、国際現代音楽協会音楽祭(香港)、Festival Angelica等、世界各地で演奏されているほか、Vallentino Bucchi国際作曲コンクール、文化庁舞台芸術創作奨励特別賞、朝日作曲賞などに入選・入賞。
吹奏楽の分野では、「饗応婦人」、「かわいい女」、「アルプスの少女」、「残酷メアリー」、「葵上」、「百頭女」などの吹奏楽曲を作曲する一方、バッハ、シューマン、リスト、スクリャービンらの鍵盤音楽の吹奏楽化も行っている。神戸大学准教授。神戸女学院大学、神戸シルバーカレッジ、姫路生涯学習大学校各講師

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